双六と文学

■絵双六のある風景

<館長より>
双六の季語は言うまでもなく「新年」です。
ここでは、双六を詠んだ俳句や短歌などを紹介してみたいと思います。それぞれの歳時記や関連書籍には「双六」に関する薀蓄が書かれていますので、それも併せて紹介します。

双六に含まれるイメージは、「家族」「コミュニケーション」「子供」「親子」「人生」「お正月風景」「ハレの遊び」などでしょう。今ではすっかり過去のものとなったのではないかと思われるスゴロキアンも多いことでしょう。しかし、少年少女雑誌の正月号には、今でも必ずキャラクターものの双六が附録として付いています。これは何故でしょうか。きっと、「家族で双六遊びをしました。とっても懐かしかったです。」というお便りが毎年編集部に寄せられるからではないでしょうか。

私は毎年12月になると、近所にある書店の少年少女雑誌の附録をチェックします。ちょっと恥ずかしいですが、これも双六館館長としての責務と考えています(大袈裟ですね)。2001年の新年号には、「未来戦士タイムレンジャーすごろくあそび」(「月刊おともだち」・講談社 )や「ポケモンとんとんバトルすごろく<表面>」「ジェニーのおしゃれアップすごろく<裏面>」(「月刊小学1年生」・小学館 )などがありました。双六は今も健在なのです!  

さて、こんな双六を詠った俳句や短歌は古来たくさんあります。その中で私の一番のお気に入りは、この俳句です。

双六の花鳥こぼるる畳かな    橋本鶏二

この句は、大変艶やかでカラフルな句です。コレクションにある「春興はりまぜ双六」「初春書始双六」を見ながらイメージしてみてください。どうでしょう。少女の派手な振袖模様にも負けない、華麗な花鳥風月の双六が畳いっぱいに展開されています。明るく華やいだ双六遊びの風景が浮かんできます。この俳句は、絵双六が一番普及していた頃の俳句でしょう。コンピュータゲームでは、俳句になりにくいですよね。

うさ忠が上がれぬ鬼平指南する大江戸春の役者双六

ところでこの短歌も気に入っています。鬼平とは池波正太郎の名作「鬼平犯科長」の主人公、江戸幕府火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらたがた)「長谷川平蔵」であり、うさ忠とは、平蔵の配下「木村忠吾」のことで、小説からイメージする場面を一首詠ったものです。

普段は厳しいボス(鬼平は 旗本であり、お殿様と呼ばれる身分であった)の鬼平だが、お正月だけは、ホット一息つける時です。鬼平はドジだけれども憎めないうさ忠を相手に選んで、私邸で双六に興じていたところ、うさ忠の前に一向に調子が出ません。一方、うさ忠はここぞとばかり、鬼平にあれこれ講釈・指南するのでありました。少し暖かな正月の午後、庭には膨らみかけた白梅の木、意気軒昂なうさ忠に、憮然とする鬼平。
襖の向こうでは、おせち料理の膳を用意しつつ、笑いをこらえている鬼平の妻久栄(ひさえ)。大きく広げられた絵双六は、「あたりきょうげん当狂言ふりわけ振分すごろく寿古録」、当節流行の役者双六だ。役者の当り役が扇面、雲型、短冊、色紙など21面のコマが藍地に丹念に描き込まれており、芝居好きの江戸っ子にはたまらない。沢村田之助の艶やかな女形や河原崎権十郎の渾身の大見得の姿が鮮やかに刷り込まれている絵双六とそれに興じる侍二人・・・大江戸初春の一風景です。

えっ、この歌、誰の作かって?それは、館長ですがな・・・!お後が宜しいようで・・・。


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